176 研究系及び研究施設の現状
鈴 木 敏 泰(助教授)
A -1)専門領域:有機合成化学
A -2)研究課題:
a) 電界効果トランジスタのための有機半導体の開発 b) 有機 E L 素子のため高効率燐光錯体の開発
A -3)研究活動の概略と主な成果
a) 有機物を用いた半導体デバイスは,エレクトロニクス産業に与える影響が大きいことから,基礎・応用研究として大 きな注目を集めている。有機エレクトロニクス素子は,フレキシブルな基板が使えるなどシリコン半導体にはない 特徴が活かせる可能性がある。我々は,新規な有機半導体としてアセンオリゴマーを提案し,ナフタレンオリゴマー
(nN)およびアントラセンオリゴマー(nA)をS uzukiカップリング反応により合成した。ナフタレンオリゴマーは無 色結晶,アントラセンオリゴマーは明るい黄色結晶である。3N,4N,2A,および3Aは高い融点と耐熱性をもつが,ジ ヘキシル体DH-2AおよびDH-3Aはアルキル基により分解温度が低下した。ナフタレンオリゴマーは溶液で青紫色, 固体で青色の強い蛍光を示す。アントラセンオリゴマーは溶液で青色,固体で青緑から緑色の強い蛍光を示す。電気 化学測定によると,アントラセンオリゴマーは比較的安定なラジカルカチオンを与えるが,酸化電位はテトラセン より高い。真空蒸着によって作成したアセンオリゴマーの薄膜は高い結晶性を示し,S iO2/Si基板に垂直か少し傾い て立っている。3N および 4N の FET を種々の基板温度で作成したが,F E T 動作は観測されなかった。一方,アントラ センオリゴマーではトランジスタ動作が見られ,移動度が2A < 3A < DH-2A < DH-3Aの順で向上した。特にDH-3A は 0.18 cm2/V s とアモルファスシリコンに近い移動度を持つ。チオフェンオリゴマーは最もよく研究された有機ト ランジスタ材料であるが,アントラセンオリゴマーはそれより優れていることがわかった。F E T の移動度を上げる ためは,有機半導体のイオン化電位を下げることより薄膜の質を向上させることのほうが重要である。そのため,分 子を秩序よく並べ,欠陥を少なくすることを第一に考えて分子設計する必要がある。[K. Ito, T. Suzuki, Y. Sakamoto, D. Kubota, Y. Inoue, F. Sato and S. Tokito, Angew. Chem. Int. Ed. in press]
b) 有機エレクトロルミネッセンス(E L )素子は,次世代のフラットパネルディスプレーとして盛んに研究開発が行わ れている。特に最近では,高効率の燐光発光材料であるイリジウム錯体が大きな注目を集めている。我々は,パーフ ルオロフェニル基で置換された高効率イリジウム錯体を開発した。これらの錯体は発光層のドーパントとして黄緑 色からオレンジ色の発光を示し,外部量子収率は12%以上,最高で14.7%に達することがわかった。錯体のみを発光 層とした場合でも,量子収率は 6.2% を記録した。
B -1) 学術論文
S. KOMATSU, Y. SAKAMOTO, T. SUZUKI and S. TOKITO, “Perfluoro-1,3,5-tris(p-oligophenyl)benzenes: Amorphous Electron-Transport Materials with High Glass-Transition Temperature and High Electron Mobility,” J. Solid State Chem. 168, 470–473 (2002).
研究系及び研究施設の現状 177 B -2) 国際会議のプロシーディングス
N. SHIRASAWA, T. TSUZUKI, T. SUZUKI and S. TOKITO, “Perfluorophenyl-Substituted 2-Phenylpyridine Iridium
Complexes: Efficient Materials for the Emission Layer of OLEDs,” Proceedings of the Ninth International Display Workshops 1207–1209 (2002).
B -4) 招待講演
鈴木敏泰, 「完全にフッ素化された芳香族オリゴマーの合成と有機E L およびトランジスタへの応用」, 第2回F& F特別セミナー, 東 京 , 2002年 5月 .
C ) 研究活動の課題と展望
最近,次世代の有機電子材料として「単一分子素子」や「ナノワイヤー」等のキーワードで表される分野に注目が集まってい る。S PM技術の急速な発展により,単一分子メモリ,単一分子発光素子,単一分子ダイオード,単一分子トランジスタなど基 礎研究が現実的なものとなってきた。一個の分子に機能をもたせるためには,従来のバルクによる素子とは異なった分子設 計が必要である。計測グループとの密接な共同研究により,この新しい分野に合成化学者として貢献していきたい。現在行っ ている有機半導体の開発は,単一分子素子研究の基礎知識として役立つものと信じている。